グループで何かの順番を決める場合、じゃんけんをする日本人が多い。コインや阿弥陀くじという手もあるが、道具を用意する必要がなく、短時間で決着できるのが良いだろう。いわゆる「三すくみ」の関係になる遊戯は、東アジアから東南アジアにかけてみられる。
一方、ヨーロッパ人は自分が何番目にやりたいかは、明確に主張するそうだ。「ロック」「ペーパー」「シザース」の偶然に任せるべきではなく、本格的に議論を始めるらしい。NHKで、外国人とのトーク番組の司会者、鴻上尚史子さんの著書「世間ってなんだ」で紹介している。互いの意見が対立すれば、弁舌の立つ子、説得力のある子、腕力で威圧する子が勝つという文化を、幼いことから経験するわけで、運動会で、同じ速さの子どもたちで競わせたり、手をつないでゴールさせたりする「平等大好き」の人たちには、違和感があるかもしれない。
偶然のようなじゃんけんでも勝ち方があるようだ。桜美林大の芳沢光雄教授が、学生を集め、じゃんけんをさせたところ、最も多いのは、グーで35.0%、パーは33.3%、チョキは31・7%だった。つまり、最初にパーを出せば、勝つ確率が上がる。2回連続でじゃんけんをした10833回のうち、同じ手を出す確率は、3分の1を下回る22.8%に留まった。つまり、「パー」→「グー」→「チョキ」の順番に出せば、勝つ確率が高くなるという結論だった。もちろん、相手がこの理屈を知っていれば、勝つことは難しくなる。
偶然にばかり頼るわけにはいかないのが、今の日本だろう。物価は上がる、賃金はなかなか上がらない。先行きは不透明といわざるを得ない。憲法前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して」とあるが、平和を愛する諸国は見当たらず、取り巻く情勢は厳しい。じゃんけんで決まるような生半可な状況ではないのは確実だろう。(時)
藤子・F・不二雄の漫画「ドラえもん」は、22世紀からやってきたネコ型ロボットとご先祖に当たる「のび太」の日常を描く。人気を支えているのは、いろいろな「ひみつ道具」だろう。行きたいところに行ける「どこでもドア」、頭に付けると空を飛べる「タケコプター」はおなじみだ。ひみつ道具を収納しているのは四次元ポケット。ロボット学校の校長からプレゼントされたもので、ドラえもんの腹部から取り外すこともできる。使いこなせるかどうかは本人の技量次第で、しずかちゃんは上手に使いこなしたが、のび太が使うと、失敗続きとなる。
次元は空間の広がりをあらわす一つの指標と定義される。現実の世界は3次元と教わったが、4次元となると、今一つピンと来ない。異次元ともなれば、いよいよ分からない。
岸田首相は年頭の記者会見で、「異次元の少子化対策」を今年の優先課題の一つとした。児童手当などの経済的支援の強化、学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、働き方改革の推進――を3本柱として掲げた。コロナ禍で、婚姻数が減ったこともあって、昨年の出生数は、初めて80万人を割る見通しとなった。想定よりも早い。経済の低迷、人口の減少で、社会には重い閉塞感が漂う。出生数の減少に歯止めをかけなければ、社会の活力まで失われて、医療や年金、介護など社会保障制度の存続も危ぶまれる。
「異次元」というからには、岸田首相には、子どものいる家庭の税を減免したり、出産に伴う医療費を無料にしたりといった思い切った政策を期待したい。東京都も首相会見と同じ日、18歳以下の子どもがいる都内の家庭に、子ども1人あたり月5000円程度を給付する方針を明らかにしている。所得制限を設けず、2023年度の給付開始を目指すという。もう、子どのいない家庭との「公平」にこだわっているわけにはいかない。(時)
北海道帯広市の愛国駅から幸福駅行きの乗車券が大きなブームになったことがある。NHKの番組で紹介されたことがきっかけで、「愛の国から幸福へ」がキャッチフレーズだった。「愛国から幸福」の乗車券は最盛期、4年間で1000万枚も売れたという。両駅とも利用客の減少で廃止されたが、今も多くの観光客が訪れる人気スポットになっている。
縁起物にあやかって、幸せを呼び込みたいと考える人は多いいようだが、「験(げん)担ぎ」が過ぎると、笑い話のネタになってしまう。落語の新春の演目にもなっている「かつぎや」は、「験担ぎ」にこだわる主人と奉公人のやりとりが笑いを誘う。江戸時代に逆さ言葉が流行し、縁起が「ぎえん」となり、それが変化し、「験担ぎ」となったらしい。
「験担ぎ」は社会のさまざまな場面にみられる。受験生に「すべる」や「落ちる」という失敗を連想させる言葉を使わなかったり、試合前にステーキとかつ丼を食べ、「敵に勝つ」こと祈ったりするのも一例だろう。
新年を迎えた。世界情勢は予断を許さない。ロシアがウクライナに侵攻、和平の兆しはない。台湾有事の懸念はかつてないほど高まっている。甚大な災害も増えている。国内でも静岡県裾野市で3人の保育士が暴行容疑で逮捕されたり、埼玉県飯能市で3人が殺害されたり、驚くような、呆れるような事件が続く。
2023年は卯年だ。卯は成長や春を表し、寒い冬の時代が終わり、これまでの努力が開花する年という。「験担ぎ」かもしれないが、今年こそ明るい年になりますように。
今後とも当ネットワークをよろしくお願いします。(時)
NHKのラジオ番組「古典講読」に耳を傾ける。毎週土曜日。講師は鉄野昌弘・東大教授。語りかけるように説明してくれる。万葉の言葉が「子守歌」のように聞こえるためか、聞き終えることは少ない。
12月17日の37回目の放送は、山上憶良の「貧窮問答歌」だった。冒頭の「風まじへ 雨降る夜の 雨まじへ 雪降る夜は 術もなく 寒くしあれば」はあまりにも有名だ。「どうしようもなく寒い夜は、堅塩を少しずつなめ、糟湯酒をすする」と続き、寒さに耐え忍ぶ農民の姿が描写されている。貧者がより貧しい者へ窮乏ぶりを問うたものとされてきたが、現在では、役人が貧者を尋ねているという説が有力視されているそうだ。
貧窮問答歌の世界を惹起するような惨状が、ウクライナで起きている。報道によれば、劣勢になったロシアは、火力・水力発電所などの重要インフラ施設の攻撃を続けており、多くのウクライナ国民が、電力や暖房を得られない状況に陥っている。修復した施設が再び攻撃を受けることもあり、停電は常態化しつつある。氷点下20度以下になる地域もあり、厳しい寒さで凍死する人々が相次げば、ウクライナ国民の戦意がそがれるとの思惑があるという。
侵攻が始まって10か月を超えた。支援する欧米各国から「ウクライナ疲れ」の声も聞くようになったが、寒さを「武器」にしようとする蛮行には呆れるばかりだ。越冬支援を話し合う国際会議には、50か国、24国際機関の代表が出席し、総額約1450億円の支援が表明された。発電機やLED電球などの供与も急務になっている。
日本列島も寒波が見舞われている。かの国の惨状を思えば、まだよしとせざるを得ないが、残念ながら犠牲者も相次いでいる。危険な寒さは1000年以上前から続いていることが分かる。(時)
「感染症対策に国防費を充てることができなかったから、新型コロナウイルスの国産ワクチン開発が遅れた」と聞いたことがある。米国のバイオ企業のモデルナは、2013年に国防総省から約27億円の支援を受けるなどし、遺伝子組み換え技術によるインフルエンザワクチンの開発に取り組んでいた。核兵器の脅威だけでなく、細菌やウイルスをばらまいたりする感染症を防ぐのも「国防」につながるそうだ。
教条主義的な学者らの反対もあって、わが国では軍事と科学が切り離されてきた。人文・社会科学、生命科学など各分野の科学者でつくる日本学術会議が、「軍事目的の科学研究を行わない」という声明をたびたび発してきたことからもうかがえる。「戦争協力への反省」は分かるが、行き先までの最短経路を教えてくれたり、出先で近くのレストランを探したりしてくれるGPSも「軍事目的で研究開発された」という理由から、会員は使わないのだろうか。
このところ、防衛費を増やすための財源議論がかまびすしい。「法人税」、「たばこ税」に加え、東日本大震災の復興に使われている「復興特別所得税」の3税に決まった。法人税は税額に上乗せする「付加税方式」で調整されているが、自民党内には「企業には賃上げを求めているのに増税はいかがなものか」との声も上がる。所得税に2・1%を上乗せして徴収している復興特別所得税は税率を引き下げる分、2037年までと定められている課税期間を延長し、復興予算に充てる税収入の総額を確保するという。
一方、非喫煙者(500人)に、たばこ税が増税されることに、賛成か、反対か聞いたアンケートでは、「賛成」は88・8%、「反対」は11・2%なので、たばこ税の増税に大きな異論はないだろう。
いろいろな議論のなかで、「安易に赤字国債を発行して、次の世代に先送りしない」という声だけは、まっとうに聞こえる。(時)