未来の小窓(54) みずがね
水銀を「すいぎん」ではなく、「みずがね」と読むことがある。江戸時代によく使われた言葉で、玉川上水や神田上水の利用料や水売りが運んでくる水の代金を指す。湿地帯を埋め立てた本所(現在の墨田区)や深川(現在の江東区)などでは、井戸を掘っても塩水が出てくることから、飲み水には使えなかったという。
深川を舞台にした作品が多い山本一力氏の小説では、水売りの男たちの姿がたびたび登場する。水売りは、上水から流れ出た水を桶にため、天秤棒の前後に担ぎ、飲み水が必要な人々のもとに届ける。大雨でも台風でも欠かさない。
「人の役に立つ」という江戸っ子の矜持がうかがえる水売りでは、飲み水に金を払うという習慣はあまりなかったような気がする。ペットボトルに入った水が、小売店に並ぶ時代になったのは最近のことだ。
世界を見渡せば、人口の増加、気候の変動もあって、安全な水を飲むことができない人は多い。イスラム教の本によると、天国はあふれる水とたわわな果物(ブドウ)があるらしいが、日本では、水が湧き、季節ごとに、たくさんの果物が実る地域が少なくない。砂漠の国々と比べると、恵まれていた国だということがよく分かる。
暮らしのなかで、水は大きな比重を占めていた。町内の井戸の回りに長屋のかみさんが集まり、おしゃべりに興じた。井戸にたまった水を汲み出し、底の異物を取り除く「井戸さらえ」に参加しないと、罰金も取られたこともあったようだ。水道が普及した令和の時代になっても、毎朝のように、近所の駐車場で、幼稚園に子供を見送ったママたちが、おしゃべりを楽しんでいるのを見かける。どこかの国のように、水の心配がないのは、御同慶の至りというしかない。(時)
深川を舞台にした作品が多い山本一力氏の小説では、水売りの男たちの姿がたびたび登場する。水売りは、上水から流れ出た水を桶にため、天秤棒の前後に担ぎ、飲み水が必要な人々のもとに届ける。大雨でも台風でも欠かさない。
「人の役に立つ」という江戸っ子の矜持がうかがえる水売りでは、飲み水に金を払うという習慣はあまりなかったような気がする。ペットボトルに入った水が、小売店に並ぶ時代になったのは最近のことだ。
世界を見渡せば、人口の増加、気候の変動もあって、安全な水を飲むことができない人は多い。イスラム教の本によると、天国はあふれる水とたわわな果物(ブドウ)があるらしいが、日本では、水が湧き、季節ごとに、たくさんの果物が実る地域が少なくない。砂漠の国々と比べると、恵まれていた国だということがよく分かる。
暮らしのなかで、水は大きな比重を占めていた。町内の井戸の回りに長屋のかみさんが集まり、おしゃべりに興じた。井戸にたまった水を汲み出し、底の異物を取り除く「井戸さらえ」に参加しないと、罰金も取られたこともあったようだ。水道が普及した令和の時代になっても、毎朝のように、近所の駐車場で、幼稚園に子供を見送ったママたちが、おしゃべりを楽しんでいるのを見かける。どこかの国のように、水の心配がないのは、御同慶の至りというしかない。(時)
スポンサーサイト