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未来の小窓(134) 貧窮問答歌

 NHKのラジオ番組「古典講読」に耳を傾ける。毎週土曜日。講師は鉄野昌弘・東大教授。語りかけるように説明してくれる。万葉の言葉が「子守歌」のように聞こえるためか、聞き終えることは少ない。
 12月17日の37回目の放送は、山上憶良の「貧窮問答歌」だった。冒頭の「風まじへ 雨降る夜の 雨まじへ 雪降る夜は 術もなく 寒くしあれば」はあまりにも有名だ。「どうしようもなく寒い夜は、堅塩を少しずつなめ、糟湯酒をすする」と続き、寒さに耐え忍ぶ農民の姿が描写されている。貧者がより貧しい者へ窮乏ぶりを問うたものとされてきたが、現在では、役人が貧者を尋ねているという説が有力視されているそうだ。
 貧窮問答歌の世界を惹起するような惨状が、ウクライナで起きている。報道によれば、劣勢になったロシアは、火力・水力発電所などの重要インフラ施設の攻撃を続けており、多くのウクライナ国民が、電力や暖房を得られない状況に陥っている。修復した施設が再び攻撃を受けることもあり、停電は常態化しつつある。氷点下20度以下になる地域もあり、厳しい寒さで凍死する人々が相次げば、ウクライナ国民の戦意がそがれるとの思惑があるという。
 侵攻が始まって10か月を超えた。支援する欧米各国から「ウクライナ疲れ」の声も聞くようになったが、寒さを「武器」にしようとする蛮行には呆れるばかりだ。越冬支援を話し合う国際会議には、50か国、24国際機関の代表が出席し、総額約1450億円の支援が表明された。発電機やLED電球などの供与も急務になっている。
 日本列島も寒波が見舞われている。かの国の惨状を思えば、まだよしとせざるを得ないが、残念ながら犠牲者も相次いでいる。危険な寒さは1000年以上前から続いていることが分かる。(時)
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未来の小窓(133) 防衛費

 「感染症対策に国防費を充てることができなかったから、新型コロナウイルスの国産ワクチン開発が遅れた」と聞いたことがある。米国のバイオ企業のモデルナは、2013年に国防総省から約27億円の支援を受けるなどし、遺伝子組み換え技術によるインフルエンザワクチンの開発に取り組んでいた。核兵器の脅威だけでなく、細菌やウイルスをばらまいたりする感染症を防ぐのも「国防」につながるそうだ。
 教条主義的な学者らの反対もあって、わが国では軍事と科学が切り離されてきた。人文・社会科学、生命科学など各分野の科学者でつくる日本学術会議が、「軍事目的の科学研究を行わない」という声明をたびたび発してきたことからもうかがえる。「戦争協力への反省」は分かるが、行き先までの最短経路を教えてくれたり、出先で近くのレストランを探したりしてくれるGPSも「軍事目的で研究開発された」という理由から、会員は使わないのだろうか。
 このところ、防衛費を増やすための財源議論がかまびすしい。「法人税」、「たばこ税」に加え、東日本大震災の復興に使われている「復興特別所得税」の3税に決まった。法人税は税額に上乗せする「付加税方式」で調整されているが、自民党内には「企業には賃上げを求めているのに増税はいかがなものか」との声も上がる。所得税に2・1%を上乗せして徴収している復興特別所得税は税率を引き下げる分、2037年までと定められている課税期間を延長し、復興予算に充てる税収入の総額を確保するという。
 一方、非喫煙者(500人)に、たばこ税が増税されることに、賛成か、反対か聞いたアンケートでは、「賛成」は88・8%、「反対」は11・2%なので、たばこ税の増税に大きな異論はないだろう。
 いろいろな議論のなかで、「安易に赤字国債を発行して、次の世代に先送りしない」という声だけは、まっとうに聞こえる。(時)

未来の小窓(132) エラスムス

 「虐待する愚か者はエラそうにムスっとしている」。保育士試験に合格した「アラフィフ」(50歳前後)の女性は、「痴愚神礼賛」で知られるエラスムスを自作の語呂合わせで覚えたそうだ。エラスムスはネーデルランド出身の哲学者。「子供といえども一個の人間」と説き、中世以来続いてきた鞭による非人間的な教育を非難したとされる。
 保育士試験は年2回行われる。筆記試験(保育原理、教育原理など8科目)と実技試験(音楽、造形、言語から2分野を選択)があり、合格率は2割ほど。それほどの難関を通りぬけたはずの保育士が驚くような蛮行を繰り返していた。静岡県裾野市の私立認可保育園「さくら保育園」の保育士だった3人が、園児の足をつかんで宙づりにするなどしたとして、暴行容疑で逮捕された事件だ。3人は30歳代。いずれも1歳児クラスを担当していた。裾野市が確認した3人の虐待行為は▽倉庫に閉じ込める▽カッターナイフを見せて脅す▽「ブス」「デブ」といった暴言を浴びせる――など多岐にわたる。園の聞き取りに対し、3人は「しつけのつもりだった」などと説明したという。
 2代目の園長は、園で知ったことを口外しないように、職員に誓約書を書かせていた。これを問題視した市は、園長を犯人隠避容疑で刑事告発している。こうした事態を知りながら、3か月間も放置した市の対応の遅さも看過できない。
 保育士は、「児童福祉法」にもとづく国家資格だ。長い間「保母」「保父」と呼ばれていたが、1999年4月の法律改正で、「保育士」になった。年齢や発達の状況に応じ、心と体の成長を助ける仕事とされる。保護者からの子育てに関する相談に応じるほか、在宅で育児をしている家庭への支援や地域での子育て支援も担っている。
 コロナ禍でエッセンシャルワーカーとされた保育士が起こした事件に、泉下のエラスムスもあきれ果てているに違いない。(時)

未来の小窓(131) 日本酒

 「次のお酒はどうしましょうか」。福岡市内で開かれたパーティで、乾杯が終わると、外国人と思われるコンパニオンから声をかけられた。「日本酒」と告げると、「冷や燗か」と聞かれた。「どんな銘柄を用意しているのか」と尋ねると、「しろ」と「黒霧島」と答えた。どうやら清酒と焼酎の区別ができなかったようだ。銘柄という言葉も難しかったのかもしれない。
 少子高齢化が進むなか、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には、今より20%以上少ない5275万人になる見込みだ。働く人が減れば、それだけ国内の需要も減少することになり、景気への影響も懸念される。人手不足を補うのは、外国人労働者だろう。コンビニエンスストアや介護、建築の現場だけでなく、さまざまな職場で外国人が働く姿がみられるようになるかもしれない。
 厚生労働省が公表している「外国人雇用状況」によると、2020年10月末現在、国内の外国人労働者数は170万人を超える。国籍をみると、中国、ベトナム、フィリピンなどアジア各国から来日した外国人労働者が全体の7割近くを占める。
 日本語には、漢字のほか、平仮名、片仮名がある。独特の言い回しや慣用句もある。まったく漢字と縁のない国からの留学生が日本語を覚えるのがより難しいと聞いたことがある。医療現場でも「飲酒の習慣があるか」を「お酒を飲むか」、「結果の方は後日、電話で」を「明日には結果が出ます。電話をします」と言い換えたりするようになっているという。
 外国人労働者が増えていけば、交わされる日本語も変わらざるを得ないのだろう。(時)

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