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未来の小窓(108) 件のごとし

 「よって件(くだん)の如し」という成句がある。書状や証文の最後に書き記していたが、最近は耳にする機会もめっきり減った。件は字義通り、頭が人、体が牛の形をした妖怪を指すことを、画家の安野光雅さん(2020年に死去)の著書「かんがえる子ども」(福音館書店)で知った。妖怪は病の流行や災害などを予言するそうだ。太平洋戦争の末期、「不思議な牛が岡山県のどこかで生まれ、人間の声で<戦争はあと4年で終わる>と言い残して死んだ」という流言が広まったことを紹介し、「戦争が終わってほしい」という期待が理性を失わせたと論じている。
 安野さんは空想力あふれる絵本を多く描いた。児童文学のノーベル賞 と呼ばれる国際アンデルセン賞も受賞している。子どもの頃から「神様が罰を与える」「血液型で性格が分かる」「手相で運命を言い当てる」ことを疑っていた、と記したうえで、テレビやスマートフォンの持つ手軽さに慣れてしまっている現代人が、物事を考えなくなっていると警鐘を鳴らしている。
 スマートフォンが普及し、外出先も食事の会場選びもスマートフォンで調べてみる時代になった。「口コミ」の評価を基準にするため、グルメサイトの評価点に一喜一憂している飲食店のオーナーもいるだろう。点数を付けるサイトが飲食店より優位に立っていることを、飲食チェーン店がサイト運営会社を相手取り、評価点が不当に下がり、売り上げが減少したとして、約6億4000万円の損害賠償などを求めた訴訟で明らかになった。裁判長はチェーン店側の請求を認め、独占禁止法が禁じている「優越的地位の乱用」に当たると判断して、運営会社に3840万円の支払いを命じた。評価点を決めるルールの「アルゴリズム」(計算手法)の妥当性が争われた初の司法判断とらしいが、サイト側が評価手法を変更すれば、評価点が簡単に変動することが分かった。有料会員になれば、評価が上位になることも分かった。「口コミ」はどこまで信用できるのか。
 安野さんは自分で考えることや疑問を持つことの大切さを説いている。「本を読む」ことは「自分で考える」ことはつながっているそうだ。あまたのフェイクニュースがあふれる社会で、何でも検索で済ましてしまう愚を今回の判決は教えているのかもしれない。(時)

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未来の小窓(107) 睡眠時間

 国内で最も有名な動物園かもしれない旭山動物園(北海道)を訪ねた。動物の生き生きとした姿を楽しむことができる「行動展示」の先駆けとなった動物園とあって、キリンの頭の高さに合わせた見学スペースを設け、長い舌をつかって餌を食べる様子が観察できるようにしていた。オラウータンの空中散歩が見られるように地上17メートルの高さに綱が張られていた。工夫を凝らした展示で、大人だけの入園客も多いという。
 動物園では、近くの医科大学との共同研究にも取り組んでいた。研究成果のうち、目を引いたのは動物ごとの一日の睡眠時間だ。トップはコアラで、22時間。木の上で暮らし、ゆっくりとした動作で知られるナマケモノよりもコアラの方が、2時間も長かった。繊維質で毒素が強く、栄養価の低いユーカリの葉を常食としているため、眠っている間に消化する必要があるとの説明だった。
 低カロリーの草を主食にする草食動物はたくさんの量を食べなければならない。肉食動物に襲われる危険性もあり、長時間、寝ているわけにはいかない。コアラやナマケモノは木の上で暮らし、消費エネルギーを極限まで減らすことで、生命をつないできたそうだ。
 睡眠時間の一覧には、ヒトの平均睡眠時間は8時間とあった。人それぞれだろうが、8時間以上も寝ている人の方が少ないような気がするが、どうだろう。国民の健康・栄養調査(2019年)によると、睡眠時間6時間未満は、男性で37・5%、女性で40・6%だった。日中に眠気を感じる、夜間、睡眠途中に目が覚めて困るとの回答も目を引いた。長引く外出自粛でスマホの利用時間が増え、夜更かしをしている小中学生が増えているという調査報告も寄せられている。睡眠不足は学習の遅れだけでなく、遅刻や不登校にもつながるのではないか。
 霊長目、ヒト科、ヒト属、ヒト種の人間が、極限まで動かないような生活は難しい。生き生きとした活動をするために、せめて就寝前1時間はスマホやタブレットの画面を見ないといった取り組みが必要かもしれない。(時)

未来の小窓(106) ハサミムシ

 細長い体型の昆虫「ハサミムシ」をご存じだろうか。肉食性で、ダンゴムシやチョウの幼虫などを、尾から延びたハサミで捕食する。メスは産室を作って産卵。その後、飲まず食わずで、卵の世話をする。卵が孵化したあとは、自ら幼虫に食べられて、一生を終える。生まれたばかりの幼虫はエサを自分で捕まえることができないからだという。植物学者の稲垣栄洋さんの著書「生き物の死にざま」で知った。
 同著に紹介されている生物はどれも、子育てに熱心だ。エサを与え、外敵から守り、独り立ちに向け、一歩を歩み始めたころに、一生を終えていく。一般的に1歳を過ぎたころからやっと歩き始めるヒトとは違い、厳しい自然界に生きる生物は、成長を急がざるを得ないことがよくわかる。ヒトは独り立ちまでの時間がかかるからこそ、両親や周囲の手が必要になるのだろう。
 しかるに、福岡県篠栗町でわが子を餓死させた母親も所業はどうだ。死亡当時男児の体重は10キロ程度しかなく、死亡前10日間は水しか与えていなかったという。母親をマインドコントロールしていた女ももっとひどい。母親一家を管理し、多額の金銭をむしりとっていた。公判が始まったばかりだが、厳しい刑に処してほしい、と思う人が大半だろう。
 子ども虐待防止のシンボルマーク「オレンジリボン」を広める運動をしている団体によると、虐待による死亡事例は年間50件を超える。1週間に1人の子どもが命を落としている計算だ。加害者は、残念ながら実母が最も多い。「子供は親元で育てるのが一番」。古くから言われてきた言葉が通用しない家庭も少なくない。子供たちの命をどう守っていくか。児童相談所、警察、行政・・・。「保護者の権利」といった「人権派」の世迷言に振り回されずに済むような、法改正を含めた仕組み作りが急務ではないか。(時)

未来の小窓(105) 脳内補正効果

 マスク姿がすっかり日常の風景になった。猛暑の季節を迎え、政府は「人との距離がとれたり、会話がなかったりする時は、マスクをしなくても良い」との見解を発表した。感染リスクが低い場所では着用する必要はないということだが、街を歩くと、マスク姿の人の方がはるかに多い。
 マスクが普及したのは、100年前のスペイン・インフルエンザの流行がきっかけだ。昭和に入ると、マスク姿のヒーローも登場した。大スター、嵐寛寿郎の当たり役で知られる「鞍馬天狗」は、イカのような頭巾を付け、口を覆っていた。白いターバンと白いマスク、マントを付けた月光仮面は、高度成長期の子どもたちの憧れの存在だった。着用をめぐって、抗議のデモまで起きる欧米に比べ、マスクへの抵抗感が少ないのは、昭和のころからの伝統かもしれない。
 英語の「mask」には「仮面」「覆面」のほか、「ごまかし」「見せかけ」という意味もあるそうだ。口元を覆うのは、どうやら不審者か悪党ということになるらしい。テロや犯罪防止のため、正当な理由なしに公の場で顔の一部を隠すことを禁じる法律のある国もあると聞く。
 マスク着用の生活が長引くにつれ、「人見知りしない子が増えている気がする」と話す保育園長の新聞記事を読んだ。幼児の人見知りは、顔を認識できている成長の証しでもあり、園長は「顔が区別できているのか」と不安に感じる時があるという。マスク姿の方がより美人に見えるのは、「脳内補正効果」というらしい。きれいな庭や玄関を見て、乱雑な室内は想像しにくいということだろうか。コロナ禍が始まって二年半となった。その影響は、想像以上に、さまざまな場所、場面で起きているのかもしれない。(時)
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