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未来の小窓(173) ジャネーの法則

 路線バスで、足元がやや不安な老夫婦を見かけた。ともにキャリーケースを持っていたのは、杖代わりかもしれない。バスに乗り慣れていないらしく、下車に大いに手間取ったあと、青信号が点滅している横断歩道に渡り始めた。道路は6車線もある。案の定、渡り切れず、道路中央の安全地帯にたどりつくのがやっとだった。その間、ほかの車からクラクションも鳴らされたが、二人の耳には届いていただろうか。
 テレビでは、膝や腰の痛みを軽くするサプリメントや疲れを吹き飛ばす栄養剤のCMであふれている。通販番組では、やたらと元気そうに見えるお年寄りが登場、「若い者には負けない」と話すが、若いころと感覚と現実とのずれはどうしようもないだろう。
体力だけでなく、年齢とともに、感覚も違ってくる。時間の経過も早くなる。「生涯のある時期における時間の心理的長さは年齢の逆数に比例する(年齢に反比例する)」との説がある。19世紀のフランスの哲学者ポール・ジャネーが考え、その甥である心理学者ピエール・ジャネーが著述したことから、「ジャネーの法則」と呼ばれる。30歳の大人が5歳の子どもに「10分間待ってね」と言うと、子どもは1時間も待たされた気になるという。
 分刻み、秒刻みの生活になったのは、どうやら戦後かららしい。昔はみんな時計もなく、寺の鐘が鳴ったからそろそろ帰ろうか、という生活だった。あわただしい毎日で、ストレスを感じている人も多いだろう。猛暑の今年、秋の季節がなかなか来ないが、ゆったりと待つことも必要なのかもしれない。(時)
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未来の小窓(172) 伐一本植千本

 人生の後半をマングローブの植林事業に取り組んだ、山本亮・ワイエスフォレスト会長の葬儀に足を運んだ。祭壇の左側には、「伐一本 植千本」の文字、右側にはマングローブを植える山本会長の写真が飾られていた。1650年ごろ、桑名藩(三重県)の藩主、松平定綱は木を伐る仕事をする者に対し、「一本伐ったら 千本植えよ」と命じていた。
 山本会長は大分県佐伯市出身。外材原木の商社を手がけた。ピーク時には100億円もの年商があった。伐採され、丸裸になったインドネシア・スマトラ島を機中から目撃したことがきっかけで、大きなショックを受けた。「森林を壊すと、文化が滅びるのではないか」と思いを巡らせ、1994年に会社をたたみ、インドネシアでマングローブの植林事業に専念するようになったそうだ。
 国連食糧農業機関(FAO)の報告書によると、森林が世界の陸地のおよそ三分の一を占める。熱帯林が最も多く、亜寒帯林、温帯林、亜熱帯林の順で続く。減少率は鈍化しつつあるが、森林面積は減少傾向にあるのは間違いない。今年は森林焼失のニュースも相次いでいる。
 日本には昔から森を大切にする文化があった。江戸時代には、森林を保全するための「留山制度」や「諸国山川掟」が制定されていた。単純に伐採を禁じるだけではなく、森林の回復を考慮して区画ごとに順々に伐採を行う「輪伐」、成熟していない樹木は伐採せずに残す「択伐」などの仕組みもあったそうだ。
 森林は河川を通じて海につながっている。山からの流れ出す水で、栄養分や有機物が海に供給される。この栄養分が、海洋生態系の豊かさや漁業資源の形成に寄与している。海の近くに広がる森林が、海洋生態系や漁業資源を守るために重要な役割を果たしている。森林が減っている今だからこそ、遠く離れた外国で、植林活動を続けた山本さんの行為の尊さを思う。(時)

未来の小窓(171) ぶっちゃけ

 ぶちあげる(打ち明ける)から転じたという「ぶっちゃけ」。隠すことなく語るという意味だ。もともとは関西地方の方言だったらしいが、2003年のテレビドラマのなかで、俳優の木村拓哉さんがセリフで多用し、一般に広がった。警察の捜査の様子を特集したテレビ番組を見ていたところ、職務質問の警察官が、窃盗用らしい道具を所持していた不審な男に「ぶっちゃけ」を繰り返し、犯行を認めるように迫っていた。職務質問は相手の懐に飛び込んで、胸襟を開かせなければならないのではないか。関西地方の方言で追及されても、犯行を認めないだろう、と突っ込みを入れたくなった。
 仕事だけでなく、仲間同士の会話でも、手紙や電話の代わりに、メールのやりとりが中心になってきているためか、大人でも語彙力が減っているような気がする。学生言葉や子どもっぽい言葉を遣っている部下を見て、「取引先ときちんと話すことができるのか」「会社にマイナスにならないのか」と心配していまう上司もいるかもしれない。
 若い人は「大丈夫」や「やばい」をさまざまな意味で使う。食事中に「やばい」と言われても「おいしのか」「まずいのか」が分からない。識者によると、今の若者は500語ぐらいですべての用が足りるらしい。「すごい」と「やばい」などを駆使し、20語ぐらいで会話を終えるグループもいるそうだ。新聞も見ない、本も読まないこともあって、書き言葉で使われる言葉や漢籍に由来する言葉がどんどん失われている。
 文化庁の「国語に関する世論調査」でも、3人に2人は「言葉や言葉の使い方について、自分自身に課題があると思う」と答えていた。「敬語を適切に使えない」や「読めても書けない」という回答も目立った。相手や場所にふさわしい言葉があるのではないだろうか。(時)

未来の小窓(170) いじめ

 バレーボール日本代表として、五輪に出場した大林素子さんの身長は、1メートル84センチ。子どものころから背が高く、姓に「大」が入っていることもあって、「デカ林」「ジャイアント素子」といいったあだ名を付けられた。身長に対する「言葉の暴力」に苦しみ、小学4年の時には、自殺すら考えたという。8月25日付けの読売新聞記事で知った。
 その後、高い身長を生かし、バレーボール選手として知られるようになると、いじめていた小学校の同級生が実業団の練習を見学に訪れた。「サインがほしい」と言われたが、断った。後日、「いじめられてすごく嫌だった」と伝えたところ、「そんなつもりじゃなかった」といじめの自覚がなかったようだったとあった。
 長期休暇が終わった。なかなか登校ができず、思いつめたうえ、いじめに耐え兼ね、自殺に走る子どももいるそうだ。群馬県の調査によると、いじめは「5~6月」と「10~11月」に、大きく増加している。
 2022年11月に発表された文科省の資料では、小・中・高校、特別支援学校のいじめの認知件数は61万5351件にのぼる。前年度の10万件近く増えた。「冷やかしやからかい、嫌なことを言われる」が最も多く、「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをしてたたかれたり、蹴られたりする」と続く。目を引くのは 「パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷される」。その件数は、2万1900件にのぼり、毎年増え続けている。
 大林さんは、記事のなかで「ふざけて投げかけた言葉を相手がどう受け止めるか、よく考えてみてほしい」と訴えていた。筆者も子どものころ、明確にだれかをいじめた記憶はないが、いじめられたと思っている同級生もいるかもしれない。相手の気持ちを推し量ることの大切さが分かる。(時)

未来の小窓(169) 総長の式辞

 タイトルに興味を覚え、石井洋二郎著の「東京大学の式辞」(新潮新書)を手に取った。1963年の卒業式で、第17代総長の茅誠司氏が、自らの妻の内助の功に感謝したうえで、「諸君もここ数年のうちに心身ともに健康で、願わくはみめ美(うるわ)しい一生の伴侶を迎えられて」とスピーチしていた。茅総長は物理学者で、小さな親切運動を提唱したことで知られる。男女の役割の分担に、違和感がなかった時代だったことを式辞はうかがわせている。
 なにかとジェンダー平等が叫ばれる昨今。今の尺度からみると、女性の容姿に言及していることに違和感を覚える向きもあるかもしれない。式辞の「諸君」には、女性は含まれていたのだろうか。
 大学といえども、当時の女子教育は、家庭で役立つ知識や教養が求められていた。その名残か、女子大では今も、人文・家政系の学部が目立つ。結婚後も働き続けることが前提となっている若者にとっては、時代遅れの学部と言えるだろう。私立女子大学の7割が2022年度、定員割れとなるなど、女子大の人気が低迷していることが報じられていた。
 未婚の男女が増え、出生率はさらに低下するだろう。少子化はさらに進む。保育園から大学まで、児童、生徒数の減少で、経営に苦しむ学校も増えることは確実だ。これまでの伝統だけでは、学校経営が成り立たないことは自明の理だろう。政界、財界でも女性の少なさが指摘されている。これまでの仕組みを大きく変えないと、日本は生き残れない。議席の一定割合を女性に割り当てる「議席クオータ」制度の導入といった、思い切った変革が必要なのかもしれない。(時)
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